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【旧宿場町は和菓子天国 vol.5】”大津菓子”の格式と伝統を今に伝える<大津菓子調進所 鶴里堂>
東海道最大の宿場町だった「大津宿」を背景に、おいしい和菓子を作る店がたくさんある大津百町エリア。
気になる和菓子店をシリーズでご紹介します。
第五回目は、大津百町の歴史と深い関わりを持つ和菓子店です。
京菓子と並び称された「大津菓子」を伝承する<大津菓子調進所 鶴里堂>
店内に入るとまず心を打たれる、美しい上生菓子。
<大津菓子調進所 鶴里堂(おおつかしちょうしんしょ かくりどう>さんは明治29年に創業し、太平洋戦争中の砂糖に対する統制があった時期も、皇室や軍関係者の御用達菓子店として大津で唯一営業を許可されていた由緒ある和菓子店。
毎朝、餅や赤飯、おまんじゅうを作って販売する「あさなまやさん」にたいし、「かしやさん」と呼ばれていました。
「かしやさん」には一般のお客さんはもちろん、茶家や寺社のお得意先も多く店先には暖簾がかかっています。
「かしやさん」は、お茶会の注文菓子を作ったり、神社や寺の接待菓子、お供え菓子を作ったりすることも多かったそうです。
古くから京都と大津の菓子職人は、近いこともあって職場を行き来していたとか。
昔の書物には、今でいう「和菓子ランキング」の1位は京都で、2位が大津だと記されていたそうです。
大正時代になると、大津で最初にカステラの製造をスタート、時代とともに洋菓子も作るようになりました。
卵をたっぷり使った栄養満点のお菓子は老若男女から愛され、現在も変わらない製法で作り続けられています。
現在のご主人、四代目の栢口智司さんも新しい名物を誕生させました。
十五夜の月を象った小ぶりなどら焼きです。
皮は国産小麦粉を使ってしっとり、中には丹波大納言小豆と栗がたっぷり。
ほんのり苦いお抹茶にも合いそうな、上品な甘さが口いっぱいに広がります。
焼印は、紫式部が石山寺で見た月に着想し、『源氏物語』を起筆したと伝わる一文。
十五夜を模した形との文学的な表現がおしゃれです。どら焼き 浪映270円。
『琵琶湖周航の歌』に登場する、狭霧(さぎり)を名にした米粉製和風わっふる狭霧270円。
滋賀県の米粉と国産小麦を使いもっちりと、芥子の実を散らして香ばしく焼き上げた皮で、北海道産白小豆を使ったつぶあんをくるり。
甘さは控えめで、程よく固い大粒の白あんが印象的な珍しいお菓子です。
店内には比叡山の杉を模した細長い円柱状の羊羹、比叡杉羊羹1本540円、籠に入っている瀬田川でとれるしじみを再現した勢多志ゞみ1,296円など、大津の風土にちなんだお菓子が並んでいます。
<大津菓子調進所 鶴里堂>さんがあるのは江戸時代「辻の札」と呼ばれた場所のすぐ近く。
東海道と北国街道が交わる場所で大変賑わい、江戸時代、幕府の法令などのお知らせを記した木の札「高札」が建てられた場所でもあります。店名の「鶴里堂」とは、大津百町にちなんだもの。
びわ湖岸を底辺に逢坂山の麓まで町が栄える様子を広げた鶴の羽、その先を延びる東海道を鶴の首から頭にたとえ、大津百町は「鶴の里」と呼ばれていたことからつけられました。
旧東海道に店を構える<大津菓子調進所 鶴里堂>さんは、今に大津菓子を伝える貴重なお店。
大津を題材にした、つい語りたくなるお菓子が揃っています。